大幸氏VS中村校長対談 「日本の半導体産業の復興に向けて」~人材育成・確保のアイデア

左から、中村和之氏(システム開発技術カレッジ・校長/九州工業大学マイクロ化総合技術センター・センター長)、  大幸秀成氏(株式会社東芝CPSxデザイン部デザイン統括室 チーフエバンジェリスト)

(中村先生)
大幸様、福岡までお越しいただきありがとうございます。本日は、半導体人材育成という少し堅苦しいテーマではありますが、大幸さんとお話ができればと思います。

(大幸様)
よろしくお願いします。


テーマ1:なぜ、日本の半導体産業は衰退していったのか

(中村先生)
まずは、日本の半導体業界について過去のふり返りを少ししましょう。1988年、当時、世界の中で日本の半導体のシェアは50%もありましたが、今や10%を割っています。世界の中では、日本だけがシェアを落とし、この約20年間非常に厳しい状態に追い込まれたと思っています。そのあたり、どうでしょうか。

(大幸様)
原因は一つではなくて、歴史的に色々な要素があったと思います。最初のトリガーになったのは、1991年の日米半導体協定で、日本の半導体市場における外国製のシェアを20%以上にすることを受け入れてしまったことです。それを理由にされることがよくありますが、私は、一つの事例に過ぎないと思っています。2番目に、携帯電話、スマホ、テレビなどの半導体をたくさん使う日本の民生機器の産業が衰退していったことです。まず、工場が日本から出ていき、産業そのものが日本のものではなくなりました。これが大きなポイントだと思っています。最後になりますが、御存じのように、半導体のビジネスモデルは、全て自社でやる「垂直統合型」とパートナーと連携する「水平分業型」があります。特に、先端のロジックLSIの分野や製品サイクルの早いものは、水平分業が主体です。世界の半導体業界で、水平分業が進んでいっても、日本のメーカーはこれについていけませんでした。いくつか綻びと欠けがあって、気づいたら大きくなっていた・・・・・。


(中村先生)
私は、1988年に、半導体の売上が世界一だったNECに就職し、SRAMの部隊に配属されました。当時、東芝、日立など、ベスト10の中に日本企業が6社も入っていました。各社が垂直統合でやって、世の中の環境に対応できなかったのがまずかったように思います。その中でも、選択と集中をうまくやられた会社もありました。東芝さんのNAND型フラッシュメモリーや、装置の会社など、今でも強いところはありますね。

(大幸様)
硬直性が強いというか、変化することに対してアレルギー反応を持っていて、なかなか動けなかったのが、日本の半導体メーカーのトラウマになっているように思います。

(中村先生)
大事なのは、フレキシビリティですね。

(大幸様)
これから、日本が半導体産業を強くしていこうとするときに、いくつかの大事なメッセージをお届けしたいと思います。まず、多量生産、多量消費からの脱却ということです。数が出なくても、きちんと収益もあがり、ビジネスも伸びていくようなサービスや、顧客への価値提供にならないと、先行している国に追いつくことができません。インフラ事業や、ヘビーデューティとかハードウェアオリエンティドなサービスのように、高品質、高信頼性、長寿命を求められるものが、日本の中にはたくさんあります。マーケットの大きい海外に出るよりも、そこで勝負すべきです。日本の良さや強みを、半導体もペアになって事業として成長していくことが大切だと強く思っています。


テーマ2:人材の育成・確保に向けて

(中村先生)
最近、九州でもTSMCの工場進出で、人材の育成が課題になっています。「失われた20年」というものがあり、半導体の教育ができるような人材がシニアに差し掛かっていて、教育をする人材を見つけるのが難しい。

(大幸様)

(半導体業界の技術者も)1980年代までは、色々な種類の半導体に携わり、設計だけではなく、製造、マーケティング、品質、標準化とかいろいろなことにも触れていました。ところが、90年代になると、どんどん細分化され、狭い領域で教えられる人しかいません。


(中村先生)
最先端の工場を見に行っても、ブラックボックスになっていて、何が行われているか分かりません。細分化されていって、全体を見ることができる人がいません。そこで、手前みそではありますが、私がセンター長をしている九州工業大学のマイクロ化総合技術センター(福岡県飯塚市)では、4年前から、4inch/1μプロセスのCMOSチップを試作し測定できる、4日間のリカレント実習をやっています。ゲートのところから製造装置に流して、できあがってきたトランジスタやRing Oscillatorなどの簡単な回路を作成するというものです。結構人気があって、大手企業も含め、全国から利用してもらっています。企業に入れば、ある分野のスペシャリストにはなれますが、シリコンのチップが出てくるまで全体を学習させたいということです。

(大幸様)
とてもいいカリキュラムですね。私は、CMOSの標準ロジックに25年間従事し、半導体で市場を広げるということをずっとやってきました。諸先輩から課題として与えられたのは、マーケットを作ることです。マーケットを生み出さないと、企業として成長しません。実験しながら組み上げていく、「用途開拓」をずっとやってきました。新人には、半導体やLEDを使って電子時計やルーレットを作ってもらっていました。

(中村先生)
半導体が入っていないものはないし、何にでも入っていますしね。

(大幸様)
社内外で講師をするとき、「半導体を最初から作ることを考えず、まず使うことを考えるように」「ラズパイやエヌビディアなど、世界中の最も使いやすいものを、まず使いこなしてみよう」とよく言っています。「どういった価値提案や課題解決ができるか考えてみよう」それがエントリーポイントで、実証実験とか、アイデアを商社経由で売ってみよう、数が出ると思えば、自分で作る。前後を逆転させる。やり方のエコシステムをこれからの半導体業界は考えてもらいたいと、強く思っています。

(中村先生)
センスのある新しいタイプの技術者が重要になってきます。
令和4年3月に、産学官で「九州半導体人材育成等コンソーシアム」が設立され、私もそこのメンバーですが、3つのスローガンを最初に作ったので紹介したいと思います。
まず、「だれもが『半導体は社会基盤の主人公である』とその価値を理解している九州」
半導体は国の経済を支える重要な産業という認知が高まっていますが、一方で、過去の歴史を知っている親の世代や、子ども、社会全体で全ての世代に半導体の重要性や楽しさを知ってもらう必要があります。
次に、「だれもが『半導体を学ぶ楽しさ』に共感している九州」
理系を目指す人が少ないというのが、社会問題になっていますが、小中高生へのSTEM教育でものづくりの楽しさを教えて、半導体には色々な専門性があるので、高専や大学生には、就職先として半導体産業を選んでくれたらいいなと思っています。
3番目が、「半導体産業で働くことに『誇り』と『生き甲斐』を実感する九州」
以前は、日本は資源がないので、加工貿易、技術が必要という危機感をもって半導体産業に入ってきました。九州には半導体工場もあるし、福岡には設計拠点があります。自然環境のいい、ここ九州で、半導体産業を頑張っていこうというものです。
*STEM教育:科学(science)・技術(technology)・工学(,engineering)数学(mathematics)の教育分野の総称

(大幸様)
なるほど。是非とも盛り上げたいですね。過去の半導体とは違うフレキシビリティを入れたい。専門性は大事ですが、理系文系は関係なく、むしろ変化に強い人材、変化についてこれる人材が半導体に入ってほしいなと思います。
職種に関しては、ローテーションできて、希望があればダイナミックに回せるようなそんな組織体があればいいと思いますね。それができるのは、九州だけかもしれません。やはり、人と人とのコミュニケーションが大事で、九州には現場も、実験をできる場もあったりします。想定通りにいかず、どう手を打たなければいけないのかというときに、人が集まらないとわかりません、そういうことを考えると、九州のコンソーシアムはすごく大事ですね。

(中村先生)
そういう中で、才能が出てくるのですね。九州は、日本全国に先駆けて取り組んでいますが、3つのスローガンの「九州」は、「日本」でいいではないかと思います。

(大幸様)
素晴らしいですね。


(中村先生)
AIの進展で、なくなる仕事も出てきます。これからは、大学で教育するだけでなく、社会に出たあとの、リカレントやリスキリングについても力を入れていきたいと思っています。

(大幸様)
半導体は特殊産業と見られがちで、それがハンディキャップになる可能性もあるので、例えば、セミナーをやるときに、半導体という主語を使わず、「インテグレーション」「集積化」「分散」とか、今更ですが、「デジタルコンバージェンシー」「ダウンサイジング」「エコ・省エネ」という言葉を使い、後付けで半導体という話にします。今まで電子回路だけのインテグレーションだったのが、機電一体型のモーターとのインテグレーションや、センサーとのインテグレーションとか、そのあたりをハイライトすれば、「おもしろいね」と人が集まってくるのではないでしょうか。

(中村先生)
具体的にどういう取組をしたらいいのか、人材確保のアイデアを教えてください。

(大幸様)
大学を卒業したら、ロングレンジで一つの企業で働くというのは、崩れてきました。これからの時代は、シニア層も含め、副業、マルチに仕事を持って、トータルの収入を得る働き方がトレンドになると思っています。トライアルしてみたいものは、たくさんあるのではないでしょうか。
特に、50代以上の方は、リスキリングという言葉を受けて動くのではなくて、それができる職場を準備すれば、人材確保はできるのではないでしょうか。働く人を「専有する」という考え方をなくす必要があります。

(中村先生)

大手企業はそれができるでしょうか。

(大幸様)

大手企業もトライアルですが、やり始めていて、徐々にガイドラインが緩まっています。
かつて半導体に携わった人材に門戸を開けば、活性化するのではないでしょうか。

(中村先生)
若い人はどうでしょうか。

(大幸様)
若い人を育てるのも大事ですが、若い人は、一つのところにとどまりたいとは思わないのでは。自分に何ができるか悩んでいる方も増えていますし。半導体を起点にして、そこから成長する人材を生み出せばいいと思います。一旦、半導体に入ってそこで修行をして、そこから他の産業へ行けばいい。全ての産業に半導体が絡んでいます。半導体をやっていれば、どこにでもつながる、そんな時代になります。異業種という言葉は、半導体にはありません。半導体は、ポテンシャルが高い、楽しむべき産業だと思います。階層を分けるのではなく、カオスな状態で、学生であろうが、シニアであろうが体験してもらいたい。


(中村先生)
時代の変化に対応できる技術者になるには、「まず、半導体」から入ってもらう。斬新なアイデアでね。そのために、大学では、何を学べばいいのでしょうか。


(大幸様)
「地球をどうするのか」「人類をどうするのか」といったビジョンや、やりたいことが何かが大事です。理系・文系は関係ありません。「答」よりも「導き方」が大事で、「導き方を知る」勉強をやっているか、自分なりに紐解くロジックを持っているかが大事だと思います。
私は、マーケティング技術の統括だったので、国内外の客先や展示会でセミナーの講師などをしておりましたが、コロナ禍でそれができなくなり、You Tubeを始めました。半導体へ気軽に入っていけるようなお手伝いをしたいと思っています。技術をわかりやすく翻訳する人材がいないので、そこが強くなると、半導体産業は復興するのではないでしょうか。

(中村先生)
目からうろこでした。大学で、半導体の講座は、選択科目ですが、最近、受講者が増えてきました。雰囲気が少し変わってきたように思います。
半導体業界が明るくなるように、これからも頑張っていきたいですね。本日は、ありがとうございました。

(大幸様)
今日は、とても楽しかったです。こういった対談を継続していきたいですね。

この対談は、令和5年1月20日に、(公財)福岡県産業・科学技術振興財団が実施したものです。

★プロフィール


大幸秀成(だいこうひであき)

株式会社東芝CPSxデザイン部デザイン統括室チーフエバンジェリスト

1982年愛媛大学電気工学科卒業。同年東京芝浦電気株式会社(現東芝)入社。半導体事業本部に配属され、標準ロジックを担当米欧メーカと製品の共同開発や標準化をグローバルに推進。2020年まで一貫して半導体の技術マーケティングと商品開発に従事。現在はCPSxデザイン部チーフエバンジェリストとして社内外共創活動に取り組んでいる。
Youtube動画配信中「週刊BIG HAPPY」〜大幸秀成のここだけの話し〜 


中村和之(なかむらかずゆき)

九州工業大学マイクロ化総合技術センターセンター長(教授)

九州工業大学マイクロ化総合技術センターセンター長(教授)
1988年九州大学工学研究科電気工学専攻修士課程・博士前期課程修了。同年日本電気(株)に入社。2001年九州工業大学へ転籍。2018年システム開発技術カレッジの校長に就任


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